6/9/'06
皆 野 民 俗 芸 能 奏 楽 研 修 会
未 来 へ と ど け
こ の リ ズ ム
こ の メ ロ デ ィ

本部講師執筆の他誌掲載コラムより、民俗芸能なお話vol.21〜をピックアップしました!
本部 講師  関根勢津子
 能楽師が能管(のうかん)でバッハを吹くというので、とある夜、オペラシティ・コンサートホールへ出かけた。能管は能楽や歌舞伎の囃子に使われる笛。西洋の音楽と日本の古典的な音楽では音階が異なるため、五線譜に書かれた音楽を和楽器で演奏するのは、たいへんな技術が必要である。まして能管は、たとえばフルートのような西洋の管楽器と異なり音程が正確に定まっておらず、単純に7個あけられた穴を奏者の指と息づかいで調節して音を作り出すので、それで西洋の音程を吹き分けてバッハの曲を演奏するのは、まさに至難の技なのだ。とにもかくにも、オーケストラをバックに紋付袴姿で能管をかまえた奏者がステージに立つという不思議な光景。曲目はJ.S.バッハの管弦組曲第2番ロ短調。曲が始まると、能管のたった七つの穴を駆使して指づかいも慌ただしい。だが、意外や意外、その音色は素直にバッハの世界にとけ込んでいる。自称バッハおたくの私にも新鮮な感動だった。
 クラシックにおいて、音楽の父といわれるバッハ(1685-1750)の時代は、日本で言えば江戸時代中期。能はそれより遡り1374年、室町将軍の足利義満が観阿弥・世阿弥親子の能を保護して後、洗練された芸術として出来上がっていった。その伴奏に、また演出効果に、不可欠なのが能管である。何百年もの年月を厳しい世界で生き抜いてきたツワモノは、音楽の国境をも超えるのだろうか。
 さて能管のほかにも、日本には伝統的な横笛がたくさんある。雅楽の高麗笛(こまぶえ)、龍笛(りゅうてき)、神楽笛(かぐらぶえ)。また、篠笛(しのぶえ)は各地の民俗芸能・祭囃子や、長唄などの歌舞伎の音楽にも使われる。雅楽の高麗笛や龍笛は大陸から渡来。他の笛も直接ではないにせよ大陸の影響を受けていることは確かである。また世界的にも、横笛のルーツはアジア、インド周辺にあると言われている。
 インドの横笛バンスリ、中国の横笛ディーズなど、アジアの横笛と日本の横笛を並べて、どれが日本の横笛かと尋ねたら、一般の人には区別がつかないほどその姿かたちは似ているが、なかでも見た目が最もシンプルなのは日本の篠笛だろう。他の横笛もほとんどが細い篠(女竹)を使っているが、篠笛はその名のごとく、むきだしの篠、両端を保護のために藤で巻いた程度の装飾。息を吹き込む穴(歌口)と、指でふさぐ穴(六つまたは七つ)を開けただけの楽器だ。街で聞こえる祭囃子や神楽の調べはこの篠笛の音色である。民俗芸能の保存と後継者育成ボランティアをしている私の愛用は六穴の篠笛。能管よりさらに穴が一つ少ない。このたった六個の穴で2オクターブ半の音を吹き分け、地元の奏楽だけでも百曲あまりの曲を演奏することができる。穴の微妙な抑えぐあいや、半音低くする「メリ」・半音高くする「カリ」、と言った己れの音感のみを頼りにした奏法を駆使すれば、さきほどの能楽師をまねて、バッハを吹くことも可能だ。小学生などのこどもたちには篠笛にもっと親しめるよう、伝統的な奏楽曲のあいまに、わらべうたなども教えている。
 篠笛は私にとっては魔法のステッキのようなもの。何百年ものあいだ姿も音も変わらず、たかだか40センチほどの長さ、直径にして15ミリ強。穴をくりぬいただけの単純な構造なのに、哀愁のある音色から、研ぎ澄まされたシャープな音色まで楽しめ、手軽にどこへでも、海外へでも持って行ける。肌身離さず、寝る時すら側におきたいほど愛しい楽器。能管などの他の横笛に比べ、比較的簡単に誰でも音を出すことができて、しかも価格も手頃。そんな日本伝統の楽器を楽しむ人たちがごく限られているというのも、なんとももったいないと思う常日頃である。
  
アジアがブーム?#23
「時空を越える笛のお話」by 関根勢津子
(06年5月号)

コラム執筆者
研修会本部 講師/ 關根 
私が97年から某社社内報のコラムに連載しているアジアのお話です。民俗芸能がらみのお話がここのところ続いたので、このサイトにも掲載してみました。




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